本作は、濱口竜介監督『ハッピーアワー』(15)、『偶然と想像』(21)の助監督を務め、ひと夏の恋愛を描いた短編映画『二十代の夏』(17)がフランス・ベルフォール国際映画祭でグランプリ&観客賞を受賞するなど、世界的に注目されつつある監督・高野徹、待望の初長編作だ。
マリ役を演じたのは、フランスで俳優としてのキャリアをスタートし、仏リメイク版『キャメラを止めるな!』(22)で個性的な通訳の女性を演じるなど、大ブレイク中の注目女優・成田結美。本当は現実に存在しないのでは? と観るものに思わせる美しくも謎めいた魅力を放つマリという女性を見事に演じた。
そして、スランプ中の映画監督・杉田役を演じたのは、Netflix「サンクチュアリ -聖域-」(23)や、映画『福田村事件』(23)など話題作への出演が絶えない、電気グルーヴのピエール瀧。映画『凶悪』(13)や『アウトレイジ 最終章』(17)で見せたアウトローな役柄のイメージをがらりと一新。恋と映画づくりに奔走する情熱的な映画監督という役どころを堂々と演じた。
マリとユーモラスな恋バナを繰り広げる女性・フミコ役には、青年団で活躍する女優の松田弘子が出演。猫のように自由奔放で掴みどころのないフミコというキャラクターを、そのまま彼女の魅力として演じ、本作により一層の深みをもたらした。
大学卒業後渡仏し、パリの演劇スクールにて計4年間演劇を学ぶ。主役リリ役を演じた『My Little China Girl』(2019年/サム・アズリ監督)でデビュー。2019年よりフランス大手芸能事務所AS Talents Agencyとエージェント契約を交わす。現在はフランスを拠点に、女優として多数の映画、TV、舞台に出演。主な出演作品に、映画『天国にちがいない』(2019年/エリア・スレイマン監督)、準主役を演じた映画『Tokyo Shaking』(2021年/オリヴィエ・ペイヨン監督)、映画『キャメラを止めるな!』(2022年/ミシェル・アザナヴィシウス監督)などがある。その他、女優としての活動だけでなく、NHKBSプレミアム『フランス中継恋しいパリ』(2021年)、フジテレビ『新春!爆笑ヒットパレード2023』など日本のテレビ番組やCMにも出演している。
1967年4月8日生まれ、静岡県出身。1989年に石野卓球らと結成した電気グルーヴでミュージシャンとして活躍する一方、1995年頃から俳優としてのキャリアをスタート。映画『凶悪』(白石和彌監督/2013年)の演技が評価され、第37回日本アカデミー賞優秀助演男優賞など、数々の賞を受賞。主な出演作品には、ドラマ『64(ロクヨン)』(2015年/NHK)、映画『怒り』(2016年/李相日監督)、映画『アウトレイジ 最終章』(2017年/北野武監督)、Netflixドラマ『全裸監督シリーズ』(19, 21/武正晴監督)、Netflixドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(2023年/江口カン監督)などがある。
長野県出身。青年団(現代口語演劇)、あなざ事情団(観客参加型演劇)、コココーララボ(演劇のつくり方を考える場)に所属。『東京ノート』、『ヤルタ会談』(青年団)、『ゴド侍』(あなざ事情団)、『コココーラ』(コココーララボ)などの演劇作品に出演。映画の出演は、『ドライブ・マイ・カー』(2021年/濱口竜介監督)、『ほとりの朔子』(2013年/深田晃司監督)、『ヤルタ会談オンライン』(2020年/深田晃司監督)、『義父養父』(2023年/大美賀均監督)など。
1985年生まれ、栃木県出身。アメリカ留学経験後、2008年に円演劇研究所入所。2010年に演劇集団円会員昇格。主な出演作品に、舞台「景清」(2016年/森新太郎演出)、舞台「光射ス森」(2022年/内藤裕子演出)、映画『二十代の夏』(2017年/高野徹監督)、映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/山田洋次監督)などがある。
フランス・アヴィニョン出身。「浪花少年探偵団」(2012年)、「ラスト・シンデレラ」(2013年)、「ショムニ」(2013年)など日本のテレビドラマで俳優としてのキャリアをスタートする。フランスの時代劇に傾倒する一方で、海外の作品、特に日本語の作品にも出演している。主な出演作品に、SF映画『最初のメデューサ(原題)』(2020年/セバスチャン・ペール監督)、映画『ジンガラと若者たち(原題)』(2022年/ジュリー・ デュクロク監督)、TVシリーズ「危険な関係(原題)」(2020年)、森茉莉の小説が原作の舞台「枯葉の寝床」(2023年、劇団セラフ)などがある。
フランス・ノルマンディ地方出身。映画、テレビドラマ、舞台など幅広いジャンルで俳優として活動。主な出演作品に、映画『FOURMI(原題)』(2018年/ジュリアン・ラプノー監督)、主演を務めた映画『コミュニティ(原題)』(2021年/クレモン・ムーラン監督)などがある。
1988年生まれ。横浜国立大学大学院都市イノベーション学府修了。濱口竜介監督『ハッピーアワー』(2015年)、『偶然と想像』(2021年)などの映画に助監督として参加する。2017年に監督作『二十代の夏』を発表し、第32回ベルフォール国際映画祭(フランス)において日本映画として初めてグランプリ&観客賞のダブル受賞をする。2023年、はじめての長編映画『マリの話』を監督。
映画『HYSTERIC』(2000年/瀬々敬久監督)で俳優デビュー。文学座演劇研究所卒業後、舞台・映画・CMで活動。2017年に小説『赤ちゃんにさわらせて』を執筆し、第123回文學界新人賞の最終候補作となる。
パリ出身。フランスの国立映画学校ラ・フェミス撮影領域を卒業後、映画『彼女のいない部屋』(2021年/マチュー・アマルリック監督)などの撮影アシスタントを務め、現在は劇映画やドキュメンタリー映画、ビデオアートなど様々な作品の撮影監督として活動している。公開待機作に、ミゲル・デ・セルバンテスの小説を原作とした映画『犬の会話(原題)』(2023年/Norman Nedellec監督)がある。
映画製作に携わりながら、ミュージシャン、フリーの録音技師として活動。監督作に『GHOST OF YESTERDAY』(2006年)、『さよならも出来ない』(2016年)など。録音技師としての参加作品に『ハッピーアワー』(2015年/濱口竜介監督)、『麻希のいる世界』(2022年/塩田明彦監督)など多数。 CD「星屑の国」発売中。 LP「あそぼ」リリース予定。
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了後、長編映画の撮影助手としてキャリアをはじめる。現在は撮影監督として、劇映画だけでなくドキュメンタリー映画、アート、ミュージックビデオ、コマーシャル、と幅広く活躍している。また近年はインターナショナルプロジェクトにも活動の幅を広げている。主な撮影監督作品に、映画『ハッピーアワー』(2015年/濱口竜介監督)、ドキュメンタリー映画『THE GREAT BASIN』(2021年/Chivas DeVinck監督)、映画『三度目の、正直』(2021年/野原位監督)、映画『悪は存在しない』(2023年/濱口竜介監督)など多数。
自身が営む、東京の古着屋/プロダクション "DAMMIT TOKYO" のディレクター。服屋のセルフプロデュースの経験を活かし、MVやブランドなどのディレクションや、写真・スタイリング、空間インスタレーションなど幅広く手掛ける。2022年に、自身のヨーロッパ買い付け旅の記録したフォトアートブック『1 Rue Erik Satie』を発表。
振付家/ダンサー、DaBYアソシエイトコレオグラファー。ダンサーとしてアクラム・カーン、シディ・ラルビ・シェルカウイ、平山素子、近藤良平など国内外の作家による作品に多数出演。振付家としては、2014年に神楽坂セッションハウスよりセッションベスト賞を受賞したほか、横浜ダンスコレクション2017コンペティションⅠで「若手振付家のためのフランス大使館賞」などを史上初のトリプル受賞。鈴木竜×大巻伸嗣×evalaの3アーティストのコラボレーションによる 『Rain』(2023年)を愛知初演後、国内外ツアーを行う。欧州文化首都カウナス2022にて初めてヨーロッパのダンスカンパニーへの振付委嘱を受けたほか、インドで現地アーティストとの共同製作を行うなど、国内外から注目を浴びている。
1986年生まれ。20代にフランス人歌手バルバラに心酔し渡仏。10年以上のパリ生活の中で独自のアーティストとしての地位を確立する。パリで歌とピアノの研鑽を積みながら、シンガーソングライターとして日本語/フランス語で歌っているほか、舞台俳優としても活躍している。歌手、ピアニストとしてパリのグラン・バレ、サント・シャペル、デジャゼ劇場に出演し現在に至る。
ひたすら逸脱を繰り広げる映画『マリの話』が決して踏み外さない一点は「面白い」ということだ。そもそも面白い映画は極めてまれなものだけれど、この映画が更に特異なのは「何がどうして面白いのかまったくよくつかめない」ということだ。
四話構成の第一話こそ、果たしてここまで同時代の他の映画作家に似ていてよいのか……と面食らうが(それにしたって上手いと舌を巻きもする)、話が進むにつれて映画はまったく思いがけないものへと変貌していく。映画の終わる頃には、観客は高野徹という一人の映画作家の誕生に立ち会うことになる。面白い。しかし、この得体の知れなさは何だか恐ろしくもある。
演技し、フリをし、共振しあう人間の身ぶりと声に宿る官能性。
そのゆらめきをじーっと凝視して飽きることのない高野徹の目は、
とてつもなく繊細でとてつもなくアブない。
ルノワールやロメールら偉大な変態作家たちの真性なる末裔だ。
不思議な吸引力を持った4つのお話。
その不思議さの一端を担う松田弘子さんの存在感に思わず心の中で拍手しました。
松田さんと成田結美さんの寄り添う優しい時間を今でも不意に思い出す。
ヒトは何にでも化けられるし俳優は自由だ。そんな幻想を信じさせてくれた瞬間だった。
高野さんの作風がとても好きです。それぞれの特異な関係性の中に生まれる「親密さ」と「情」を冷静に眺め、捉えて、揺さぶるような。
不思議...。60分の映画、『マリの話』は終わらない。作品は、4章のエピソードで構成されているけれど、物語は永遠に続くことができる気がする。次のエピソードがぼんやりと頭に浮かんでる。
「俳優として映画の中の役を考えること」と「映画の中で役として考えていること」の化学反応が起こり、皆さんの「頭の中で思考している」(様子)演技が素晴らしかった。
マリとマリのまわりを取り巻く人たちとの距離感、四つのお話それぞれの距離感が、ずっと夢の中のようで、でも不思議な説得力があって、観終わったあと、次の日、一週間後と、何度も思い出す映画でした。不思議な映画体験をしました。
日常の見過ごしてしまいそうなへんてこな出会いや発見の欠片を改めて大事にしたいなと思いました。
『マリの話』を観ながらなぜか自然と涙が溢れていました。
マリの心の葛藤、傷ついてもそれでも誰かを愛し続けたいと思うマリの姿。そんなマリを観て、とても切なくなり、でも思いがけない素敵な出会いに、また胸がほっこりと温かくなり・・・最後にはなんだか魔法にかけられたような気持ちになり、もう一度観たくなりました。
この作品を通して、本当に誰かを愛するってどういうことなんだろう、と考えさせられました。そして女性として強く生き抜いていこうと、マリに背中を押してもらえたような気がします。
本作を通して、皆さんにも少しでも元気を与えられたら嬉しいです。
この映画はいくつかのパートで構成されています。自分はそのうちのひとつを担当させていただいたので、実は全貌はわかっていないんです。でも、観客の皆さんの感じ方でいくつもの物語を紡ぎ出せる面白い作品だと脚本を読んで思いました。どうか楽しんで。
夢なのか、日常なのか、夢だとしてだれがだれの夢を見てるのか。『マリの話』を見ていると、いろいろなことがわからなくなります。でも、そのときどきに自由な見方をして良いのだと言われている気がします。出てくる人たちは、一つのことを言いながらどうも別のことを考えてるみたいだし、それが何なのかわかりません。わからないことをわからないまま味わったり、ああなのかこうなのかと思いをめぐらせたり、そういう豊かな時間を過ごさせてくれる作品だと思います。
ひたすら逸脱を繰り広げる映画『マリの話』が決して踏み外さない一点は「面白い」ということだ。そもそも面白い映画は極めてまれなものだけれど、この映画が更に特異なのは「何がどうして面白いのかまったくよくつかめない」ということだ。
四話構成の第一話こそ、果たしてここまで同時代の他の映画作家に似ていてよいのか……と面食らうが(それにしたって上手いと舌を巻きもする)、話が進むにつれて映画はまったく思いがけないものへと変貌していく。映画の終わる頃には、観客は高野徹という一人の映画作家の誕生に立ち会うことになる。面白い。しかし、この得体の知れなさは何だか恐ろしくもある。